【感想】『エリックを探して』 ケン・ローチが自己啓発本を出したら…
自己啓発本って、別に読んで害が及ぶわけでもないのに、(私をはじめ)なんであんなに毛嫌いされてるんだろうと考えたら「あんな本読んで、人生がうまくいくなんてありえんだろ」という感情が先行するからだと思いました。
まさしく、『エリックを探して』の主人公エリックも、奥さんを置いて逃げてしまったことから、「何をやったって、俺は駄目なんだよ」と、口を開ければ否定的な意見をする、典型的な自己啓発アンチっぽい男です。
でも…もしもその自己啓発本を出した著者が、自分がめちゃくちゃ好きな人だったらどうでしょう?有名人でも、アーティストでも、スポーツ選手でも構いません。
なんならスポーツ選手の自己啓発本は珍しくないように感じます。
『エリックを探して』は、まさしく人生どん底の主人公が、突然マンチェスター・ユナイテッドの有名な選手、エリック・カントナの幻影を見るようになり、カントナからあんなことやこんなことを、人生のアドバイスとして享受されます。
まさに生ける自己啓発本。あ、でも幻か…
このカントナさん、実力もサッカーへの情熱もすごいのですが、ルールや規範にとらわれるのを極度に嫌い、そんな性格も災いして、出場停止を食らったりしています。
作中でははっきりとは分かりませんし、wikiにも明言されていないのですが、どうやらレフリーに暴言を吐いて、出場停止を食らったカントナに、サポーターがヤジを飛ばしたところ、虫の居所が最悪だったカントナはおもっくそケリをくらわせました。そこから選手生命が転落したとのこと(作中の主人公エリックは、サポーターに非があるとカンストを庇います)。
(調べてたら出てきた画像。サッカー選手の飛び蹴りとか、めたくそ痛いんだろうなあ…知らんけど)
そんな酸いも甘いも知るカントナさんから直々?にアドバイスを受けるエリックは、一歩一歩、くそったれな人生と向き直っていきます。
奥さんと関係を修復するためにあれこれ頑張りますが、それと並行して自分の再婚相手とのドラ息子2人は不良とつるんでばかり…(再婚相手ともすでに別れている様子。なんだこのデジャヴ…あれだ、「フレンズ」のロス・ゲラーだ!)
(「いいかい?僕はね…」)
仕舞には息子がつるんでいたのは不良ではなくギャングだったと知ると、エリックは激怒。
銃の隠し場所に使われてしまったりとてんてこ舞い。
息子の代わりにギャングにもう足を洗わせてほしいと頼みに行っても、狂犬に襲われているところを撮影されyoutubeにアップされるという離れ技を食らいます。
しかも、元奥さんとの関係がかなり良くなり、自宅に招いて食事をとっていたら、そこにガッチガチの機動隊が、銃を探しに突入してくるという最悪のタイミング。
もはや修復不可能と思ったとき、再び名プレイヤーカンスト様から、ありがたきお言葉が…
最終的にエリックは、ある方法でギャングにリベンジするのですが、この方法が結構予想外でした。
どうしても『私はダニエル・ブレイク』や『この自由な世界で』のような人生ハードモード展開が起こると身構えていただけに、この展開はなかなかの爽快感でした。
さながらスポーツ観戦してるみたいな…サッカー選手が出てるだけに。
でも、常に労働者の味方である、ケン・ローチならではの演出でした。
前回書いた『『モンガに散る』が極道×青春というありそうでなかった雰囲気でした。 - 日刊ねりきり』もそうですが、ギャングが絡むからと言って重い雰囲気の映画ばかりではないのですね…!
自己啓発本が嫌いでも、ケン・ローチの自己啓発映画は嫌いにならないでください!
ちなみにエリック・カンストはサッカー選手引退後は、本作をはじめ俳優活動を行っているそう。
最近ではマッツ・ミケルセン主演の『悪党に粛清を』に出演しているそうなので、エリック探してみてください…