週間ねりきり(不定期更新中)

妻と2匹の猫と暮らす、よく分からない視点で映画のことを書く人です。意識高い系ブログが集うはてなブログの中で、ひたすら意識低い系の記事を不定期更新。 これに伴い日刊から週間になりました。今まで嘘ついててすいません…

『フォックスキャッチャー事件の裏側』デイヴ・シュルツ殺害は未然に防げなかったのか?

ヤマダです。

 

ベネット・ミラーが2014年に監督した『フォックスキャッチャー』は大きな話題になりましたが、Netflixのオリジナルドキュメンタリー作品に、フォックスキャッチャー創設者であり、レスリング選手のデイヴ・シュルツを殺害したジョン・デュポンの転落を追ったドキュメンタリーがありました。

 

 

 

レスリング金メダリストはなぜ殺されたのか? 家庭用ビデオで撮影された未公開映像を交え、大富豪から殺人犯となったジョン・デュポンの転落の軌跡を追う。(Netflix公式)

 

ジョン・デュポンとデイヴ・シュルツの関係を軸に、いかにしてデュポンは殺人を犯してしまったのかを、彼の情緒の乱れや、それに目をつぶってしまった関係者のインタビューと、当時のホームビデオで全編構成されており、再現VTRは一切ありませんでした。

それゆえ、ドキュメンタリーとしてはだいぶ生々しい内容となっています。

 

 

情緒不安定の人に大金を持たせてはいけない?

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元々デュポンもレスリングが好きでしたが、親に金持ちのやるスポーツではないと言われたり、体が弱弱しいこともあって、そもそも彼に向いているスポーツではありませんでした。

しかし、そんな彼が御曹司という権力をフルに活用して立ち上げたのが「フォックスキャッチャー」です。

彼は選手になるより、チームを持つことにしたのです。

そりゃ金持ちならそっちの方が好きなスポーツであるレスリングに、ちょちょいのちょいで貢献できます。

 

それも常に自分の傍に置いて、まるで家族のようなかかわりを持つために、広大な彼の持つ農場に選手を続々と招きます。

デイヴも家族を連れて農場にやってきて、半ば共同生活を始める語りの成りましたが、選手間の中はとても良好でした。

 

デュポンとの関係も、最初こそは住居も与えれば満足行く資金援助もしてくれるなど、良い関係を築いていきます。

 

ところが幼いころから、家庭環境に難があったデュポンは常に孤独を抱え、今では強迫性障害を患い、時折不可解な言動を繰り返し、選手や周囲の人間を戸惑わせます。

 

突然黒色が嫌いだからと理由だけで、優秀な黒人選手を突如解雇したり、フォックスキャッチャー』のワンシーンでもあったような、拳銃をもって選手の前に現れるなど、ほとんど狂気の沙汰だったようです。

それでも選手たちは、援助してもらっている立場なので、意見は常に言わず、悪く言えば黙ってい見ているか、見て見ぬふりを決め込むばかりでした。

 

特にデュポンの狂気を身近にとらえたシーンの一つに、冗談でからかったデイヴたちに対し、「全員ぶち殺してやる!」と怒鳴る場面がありますが、本当に怖いです…説得力があり過ぎる…

 

しかしそんな選手の中でも唯一、デュポンに率直な意見を言うのがデイヴでした。

 

デュポンの異常な行動はますますひどくなり、自分が試合に出るためのシニア部門レスリング大会を開催すると、勝ち目のないデュポンはすぐに八百長に走ります。

これに関しても、皆デュポンの逆鱗に触れるのを避けるため、黙認されてしまいます。

 

そんなデュポンとは裏腹に、デイヴの知名度はますます上がり、デュポンは次第にデイヴが自分の敵という妄想にかられるようになり…結末は知っての通りになってしまいます。

 

 

マーク・シュルツはストーリーテラー 

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ひとつ気になった点に、『フォックスキャッチャー』では主人公にあたる、デイヴの弟

マーク・シュルツが殆どというか、全く登場しません。

インタビューはデイヴの家族をはじめ、当時一緒に農場に住んで選手として活躍した者たちや、事件を担当した弁護士や検事、デュポンを逮捕した警官など。

 

なので、ドキュメンタリーを見ても「あ、このシーン、ベネット・ミラーの映画でも見た!」というような既視感は、良くも悪くも、あまりないです。

まあ、『フォックスキャッチャー』はドキュメンタリーではないので、当然と言えば当然ですが、今回のドキュメンタリーにマークが出てこないのには違和感を覚えます。

 

おそらく『フォックスキャッチャー』のマークは、実際に事件を目の当たりにするというより、デュポンという男の詳細を、観客に伝えるためのストーリーテラー的ポジションだったのかなと、このドキュメンタリーを見て改めて感じました。

 

これだけ闇の深い事件を、あそこまでの作品に仕上げたのは、ひとえにデュポンという人間と、彼に関わった男の関係をうまく描いたからなんだと、『フォックスキャッチャー』の良さもより再確認できるとおもいます。

あんなに淡々とストーリーが進むのに、すごい引き込まれるんですよねえ…

 

いかに友情が脆いかも教えられる作品

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デイヴ射殺後の判決までを描いている本作。

 

デイヴ殺害後は屋敷に立てこもるデュポン。警官は交渉に出るも、デュポンが就寝すると伝えると、なぜか警察はそれを許可。

警察はメディアからいい加減な対応を非難され、「デュポンが銃を向けた先にある防弾チョッキは、彼の資金で得たものなんじゃないか?」なんて癒着まで騒がれます。

 

しかし、暖房を止められたデュポンは、機械の様子を見に屋敷を出たところで逮捕されます。

 

デュポンの裁判は精神鑑定で左右される運びとなりますが、デュポンは逮捕時は髭なし髪も整えていたのに、髭はボーボーで髪も伸び放題、最後の方は車いすで法廷に登場するなど、精神に異常があったことをアピールするのに余念がありません。

 

そして農場にいた「フォックスキャッチャー」の面々も、デイヴ側に着くか、デュポン側に着くかで揺れ動きます。

 

私たち外野組からすれば、被害者側に着くのが当たり前のように思えますが、選手も選手生命以外に家族を養うために、デュポン側に着くこともありました。

実際にロシア人で、デイヴとは親友の選手は、母国が不安定ということもあり、デュポン側に着くことに。

そうやって書くと聞こえはいいですが、要するに友情よりも金をとったということです。

 

それにデュポンも、好きで強迫性障害を抱えたわけでないし、「フォックスキャッチャー」の人々も、彼の暗い過去を知っているだけに、彼を完全な悪者として見れないのです。

 

デイヴ・シュルツ殺害は未然に防げなかったのか?

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デュポンには有罪判決が下され、彼は獄中でその生涯を終えます。

 

そもそもデイヴ殺害はなぜ防げなかったのか。

理由は最初の方にも書きましたが、みんなデュポンの異常な行動は分かっていたのに、彼に逆らうことで起きるデメリット(金銭面での援助停止や、身体面での危険)が大きすぎて、黙ってやり過ごした方がいいと思っていたからです。

 

かといって、その異常な行動に異議を唱えるような行為に一番近いことをしていたのがデイヴであり、殺害されてしまったのも彼だけというのがまた皮肉な結末です…

 

また、デイヴ自身も身の危険を感じてはいたのですが、「次のオリンピックが終わるまで」と言っていたらこんな事件が起きてしまいます。

 

危険を察知してはいるけど(ヒノノニトンみたい…)、ずるずると判断を先延ばしにした結果、こんな事件が起きてしまったのでしょうか。

 

人間歳を重ねるほど、身の危険を感じても、その対処をするのが億劫だったり、状況的に難しいことが多くなります。

例えが大雑把ですが、過労死するまで会社を辞めない(辞めれない)のと似ているようにも思えます。

 

今回の事件は、誰が悪いというよりかは、色々と負の要素が集まってしまった結果のようにも思えますが、やはり少しでも身の危険を感じたら、「逃げるが勝ち」という判断をする勇気も大切だと思いました…